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2021年12月25日土曜日

洋画3年次抽象スクーリング報告

 洋画Ⅴ-9《抽象》東京・京都スクーリング報告

 今回は前半が遠隔授業、後半が対面で行われた洋画Ⅴ-9抽象の東京(T)と京都(K2)スクーリングを少しごっちゃになりますが報告させていただきます。遠隔・対面授業の双方をイメージしやすいと思いますので是非参考にして抽象を身近に感じていただければと存じます。

 今年度より洋画必修となった抽象スクーリング。洋画コースでは皆さんに抽象画を目指してもらいたいわけではありませんが、いまや抽象画は絵画展でみかけないことはないと思います。「具象画しか興味がない」或いは「難しそうでいやだ」「技術が学べない」と思われている方もおられるでしょうが実は抽象画は決してむずかしくなく、自然に造形が理解できるとともに、とても油彩画技術の勉強にもなります。


「洋画Ⅴ-9抽象Tスクーリング」

前半遠隔:10月2・3日(担当:山河全)

後半対面:10月30・31日(担当:小林良一)

「洋画Ⅴ-9抽象K2スクーリング」

前半遠隔:11月13・14(担当:相見節子)

後半対面:12月11・12日(担当:山河全)


■まずは双方の前半、遠隔授業から

遠隔授業ではPCソフトのzoomを使用しますが、コロナ禍が始まった昨年の最初の頃は教員も受講する皆さんも手探り状態の授業でしたが、皆さんも相当に慣れ授業進行もスムーズになってきました。皆さん無事授業参加…


出欠を取り終えたら…あれれ1人退出してしまった!みたいにWi-Fiが安定せず再度トライする場合も時折ありますが、慌てず入り直してもらえれば大丈夫です。


最初は事前課題の抽象水彩試作品発表ですね。
上はクレー、下はバーネットニューマンかな?
遠隔では通常の会話指導以外にこのように画面共有というzoomソフトの機能を使って皆さんの画像を表示してもらいます。指導どおりやれば意外に簡単にできますのでご安心を。


抽象初めてはこんな風に著名作家に似た形になりがちですがそれぞれが感じたことなので気にせずとも大丈夫。
皆さんの事前課題発表が終わったら、今度は教員が画面共有しながら課題説明に入ります。



20Ⅽ美術が生んだ抽象の巨匠たちが試したさまざまな抽象への冒険を見ていきます。



もうここではドローイングの説明に入りましたね。


上は今回抽象の入り口にするオートマティズムの手法紹介です、下は相見先生のオートマティズム説明とドローイングサンプルですね。


すぐに手に入るマチエール素材などの紹介もします。


さてここからは皆さん思い思いのドローイング開始!
ですが、決して難しく考えず子供時代の遊びのように楽しんでもらいます。


オートマティズムとは意識せずにつくる造形、上はコラージュですね。下はスタンプ、デカルコマニー、垂らし込み、霧吹きのようなものもありますね。一日目の終わりには
それぞれに興味を惹いたものを提示し発表してもらいます。





ご自分の足の上から霧吹きをしたらこんなになりました。
それで満足できずスタンプしておられます。
何も考えなくても造形的見え方の工夫をされた例ですね。



2日目には後半の油彩やアクリル画完成を目指してエスキースを作っていきますが、その後半に用いる事前課題の綿布パネルの作り方紹介です。こちらもパネルに送付される綿布を張りジェッソを塗るという簡単なものです。


さてさて皆さん何ができていくのか?
すこし京都・東京混ざり乱雑ですが、皆さんの苦心のエスキースをご覧ください。

全くモチーフも具象再現もなく、オートマティズムで遊ぶ中から自然にそれぞれがまとめあげた造形です。初めての方が多いのですが、とても見事な作業内容でした。
さてこのそれぞれの造形的発見が、後半ではどのように油彩・アクリルで描く絵画へと発展するのでしょう。

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■そして双方の後半、対面授業では…


 東京・京都のすべてのスナップがないのが残念ですが、授業のいくつかのシーンを紹介しておきましょう。
 皆さんまずはエスキースを並べ自らの構想を語りつつ、後半の事前課題である「ジェッソ下塗り綿布パネル」への描画を試みていきます。
 まずは構想の見直しから…、勿論そのまま描いても一向にかまわないのですが2日間でどこまで描けるか、本当にエスキースのまま全体を描きたいのか?などを考え、自らのエスキースをどのように画面に取り入れるかを考えてみます。

そのなかでもエスキースのトリミングや角度による見え方の工夫です。下記は撮影→プリント→コラージュ




次はエスキース自体を折り曲げて撮影




そして、頭から離れぬ地図を土台にジャスパー・ジョーンズ風タッチに挑戦




はたまた、全面ではなくトリミングして描写に挑戦!などなど実に人それぞれのアプローチが登場します。




いつの間にか構想が縦から横へ、また逆へ…
次第に造形美を狙う眼へと変化していきます。



とにかく絵具を増やし手数を押しまず頑張るしかない!


コラージュのおまけでできた残骸の造形
美しいです。


ただひたすら描写、なんか妙な幻想絵画に見えてきました。


ジャスパージョーンズ!ちょっとクレーも入り出したか…


眼が選んだ造形を実現しようと絵具との格闘がつづきす。
そうなのです!絵は何よりも絵具をうまく扱うことが何より大切なのです。アイデアや構想は能く探せばそれぞれの中にいっぱいありますが、それを実現するのは絵具の扱いなのです。そのことを次第に意識できるようになれば大いなる成長といえるでしょう。

実験ドローイングからエスキース制作、キャンバスへの描画と僅か4日間のスクーリングですが、難しく考えても最後は絵具との格闘に明け暮れるのが絵画、そしてこの抽象も自らが選んだ造形を絵具によって実現するという難しさを体験していきます。

そして…できたものは


今回は見事に再現によらぬそれぞれの抽象画になりました。「エスキースと全然違うじゃない」と思われるでしょうし受講生からもその声がでましたが、現実的に偶然できた美しいマチエールや微妙な色彩対比、筆致などを緻密に再現するのはプロの画家にとっても至難の業。
それも2日間という短い時間での再現となるとモノによってはとても無理な場合も多く出てきます。
そのうえ油絵具、アクリル絵具はそれぞれに得意不得意分野があり、そう簡単に皆さんの思い通りに乾いてくれたり、グラデーションをさせてくれません。
そこで必要になるのが、柔軟な構想の転換や造形性を重視した画材の扱いの工夫なのです。
 その点では今回の東京T・京都K2スクーリング受講の皆さんはとてもよく格闘・工夫されたと思います。

 何も考えず試すことから始め、次第に生まれてくる自らの構想や造形的興味に忠実に、最後は絵具のみで何ができるかがしっかりと試せたのではないでしょうか。
 決して満足のいく結果ではなくてもとても充実した作業ができたと思います。それぞれが大いに抽象という新しい空気を吸い、大画家たちがどのような苦心のすえ抽象画を生み出してきたか、その一端を垣間見たといえるでしょう。
 今後抽象画を鑑賞する際には、いままでと全く違った見え方を感じるでしょうし、具象画を描く際にも自らの眼が選ぶ造形性がきっとむくむく起き上がってくると思います。
 楽しくも生みの苦しみを体験する貴重な授業だったと思います。先生方受講生のみなさんご苦労さまでした。
今年も残り少なくなりました、自らの作業に自信を持ち是非良い年をお迎えください。(Y)