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2013年11月29日金曜日

【展覧会報告】


 さて、以前展覧会案内をしていたベン・シャーン展と木島櫻谷(このしまおうこく)展を見に行ってきましたので簡単に報告しておきます。(不思議に双方とも宮ノ前という地名でした。)

《ベン・シャーン展》

京都から車を走らすこと約1時間、中国自動車道を降りて15分程度で伊丹市立美術館に到着しました。兵庫県の一美術館ながら学芸員の方も熱心で、以前より良い展覧会を企画していたので一度行ってみたいと思っていましたが、今回が初めて‥。街角に立つ日本屋根の小さな美術館でした。展示品は国内にあるものを集めての展覧会なので、ポスターや版画、ペン画などの小品が多かったですが、名品の数々です。


664-0895兵庫県伊丹市宮ノ前2-5-20

 ベン・シャーンは言わずと知れた20世紀アメリカが生んだ大画家ですが、生まれはロシア。ユダヤ人迫害を避けアメリカへ移住し、線の魔術師と呼ばれるまでになった画家です。
 油彩は初期の小品が二点のみでしたが、意外だったのは、初期のベン・シャーンがとても忠実なデッサンをしていたことです。
 その後、ヨーロッパ旅行で知ったセザンヌやルオーに衝撃を受け変化していったようですね。
帰国後、ルオーの黒い輪郭線とマチスの変形を足したような、それまでとは全く違う絵作りになっています。
 しかし、この模倣も一時期。やがて色彩は消え細い輪郭線のみが、徐々に彼の表現の核をなしていきます。
 社会派ポスターデザインを多く手がけたベン・シャーンは、画家として認められなかったようですが、その直接心に触れてくる表現力はデザインであれ線画であれ見るものを圧倒します。
 


 やがて、現代美術界の巨匠ヴィレム・デ・クーニングと一緒に米国代表としてベネチア・ビエンナーレに出品したことが、世界的な巨匠として認められる結果となったのでしょうね。
 来歴はともかく、一番の興味はその震えるような線のひみつです。
 彼の息子の記憶によると「毛先のさばけたごく細い筆で描いていた。」とのことですが、見ると一言には片付けられないような繊細な仕事でした。
 そのデッサン力にものを言わせて描いた一気呵成の線もあれば、相当慎重に毛先のバラけを使って描いた線、何度もたどるように引いた線、それぞれ様々でした。
 これは絵を描く私たちにとって、その線に対する繊細さはとても勉強になりますね。


 そう言えば、美術手帖も知らなかった少年の私が、ふと覗いた中にリルケの詩集「マルテの手記」のために描いたベン・シャーンの挿絵があり、「線だけでなんという表現力だ!」と衝撃を受けたことを思い出しました。実物を見たことがなかったので、今回はそれもお目当ての鑑賞。
最終室にあり、存分に鑑賞できました。

 ちいさな画面でも十分に訴えかけてくる線、そして僅かなことで成立させている緊張感のある画面。ヨーロッパのクレーに匹敵する現代の巨匠を味わった一日でした。
 いつも展覧会の帰りに質問や意見をいう妻でしたが、帰路に一言もなし。どうしたのかと問うと、「あまりのすごさに言葉も出ない。」と一言でした。
 関西在住の方必見です!(私も数十年ぶりでした)


《木島櫻谷展》


 翌日は、京都鹿ケ谷にある多数の住友コレクションを持つ泉屋博古館に出かけました。
鹿ケ谷といっても京都以外の方はどこのことやらわかりにくいですが、白河通り丸太町より東を鹿ケ谷といいます。大学からも近く哲学の道を歩いた最南端です。

606-8431京都府京都市左京区鹿ヶ谷下宮ノ前24

 木島櫻谷(このしまおうこく、と読む。きじまさくらだに、では有りません。)は竹内栖鳳とともに日本画界を背負って立つといわれた巨匠。夏目漱石の酷評が原因(?)で精神的に病み衣笠に隠棲。
 自分もデザインに加わり、80畳のアトリエを持つ邸宅は櫻谷文庫といって、12月15日まで土日祝のみ特別公開中です。

京都市北区等持院東町
京福・北野白梅町駅から徒歩5

 何故、その櫻谷が気になったかというと、栖鳳と何が違うか見比べたい、また移り住んだ衣笠に、何故その後多くの大家たちが移り住んだか興味を持ったからです。


 結局、土田麦僊、村上華岳、堂本印象、小野竹喬、福田平八郎、洋画家の黒田重太郎らが移り住み、「衣笠絵描き村」と呼ばれた所以はわかりませんでしたが、地価が安かったからか、自然が多く町にも近いせいだったかもしれません。
 絵の方は歴史画から入り、卓抜した運筆の冴えは栖鳳同様にすごいものです。特にスケッチの数はものすごい数らしく、20代のものが展示されていましたがどれも生真面目なほど風景や動植物を移していました。
 一口では言うのは難しいですが画風はといえば、栖鳳は瀟洒な都会派天才。櫻谷は生真面目な田舎風天才とでも言えるでしょうか。別に馬鹿にした言い方ではないのですが、動物をモチーフとしてではなく、無理に生き生きとも描いていないところに、彼独特の眼差しを感じたということです。
 展示はそれほど多くなく一室限り、四期に分かれており上に掲載した狐の絵は展示されていませんでした。栖鳳のチケットを持っていけば2割引らしいです。
 このあたりに栖鳳展とぶつけた「こんな画家も知ってほしい」との企画者の意図も感じられます。
 時間が許せば白梅町近くの櫻谷文庫を訪れてみたいとおもいました。(Y)